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神戸地方裁判所 平成11年(ワ)97号 判決

本訴原告

柏木登美子

ほか一名

被告

杉原賢昭

反訴原告

杉原賢昭

被告

柏木登美子

主文

一  本訴被告(反訴原告)は本訴原告(反訴被告)柏木登美子に対し、金一七五万三四二七円、本訴原告柏木弘一に対し、金二四四万六八二六円及び右各金員に対する平成九年一一月二八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  本訴原告(反訴被告)柏木登美子は本訴被告(反訴原告)に対し、金一二万三七五〇円及びこれに対する平成九年一一月二八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  本訴原告らのその余の本訴請求及び反訴原告のその余の反訴請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用中本訴に関する部分はこれを五分し、その二を本訴原告らの、その余を本訴被告の各負担とし、反訴に関する部分はこれを二分し、その一を反訴原告の、その余を反訴被告の各負担とする。

五  この判決は第一、二項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

{以下、本訴原告(反訴被告)柏木登美子を原告登美子と、本訴原告柏木弘一を原告弘一と、右両名を原告らと、本訴被告(反訴原告)を被告と、川崎医科大学附属病院を川崎医大と、石野整形外科を石野整形と、社会保険神戸中央病院を神戸中央と、有限会社ハピックスエンジニアリングを会社という。}

第一請求

一  本訴

被告は原告登美子に対し、二九二万七九三〇円、原告弘一に対し、三七七万四五三一円及び右各金員に対する平成九年一一月二八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  反訴

原告登美子は被告に対し、二四万七五〇〇円及びこれに対する平成九年一一月二八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告登美子運転、原告弘一所有の自動車が路外に出るために中央分離帯の切れ目付近に停車中、被告運転の自動車に追突された事故について、原告らが被告に対し、自動車損害賠償保障法三条(以下、自賠法三条という。)、民法七〇九条に基づき、被告が原告登美子に対し、民法七〇九条に基づき、それぞれの被った損害の賠償を求める事案である。

一  争いのない事実(特に断らない限り、本訴、反訴とも。以下、同様である。)

1  交通事故の発生(次の交通事故を以下、本件事故という。)

(一) 日時 平成九年一一月二八日午後六時一五分頃

(二) 場所 倉敷市中庄三五二六番地の二先県道(以下、本件事故現場という。)

(三) 加害車 被告運転の普通乗用自動車(岡山五二は五四二九、以下、被告車という。)

(四) 被害車 原告登美子運転、原告弘一所有の普通乗用自動車(神戸三四ほ九一九七、以下、原告車という。)

(五) 事故の態様 本件事故現場において、原告車が停車中のところ、被告車が原告車に追突した。

2  責任原因(本訴関係)

被告は、自賠法三条、民法七〇九条に基づき、本件事故により原告らが被った損害を賠償する責任がある。

3  損害(本訴関係)

本件事故による原告弘一の原告車の修理費相当の損害は、二〇四万八二八六円である。

二  争点

1  原告登美子の民法七〇九条の責任の有無(反訴関係)、本件事故における過失相殺の要否及びその程度。

2  右点に関する当事者の主張の要旨。

(一) 原告ら

(1) 原告登美子は、右折するため、本件事故現場である中央分離帯の切れ目付近に五秒間程度停車中に、被告運転の被告車に追突されたものであり、原告登美子は民法七〇九条の責任を負わず(反訴関係)、本件事故は被告の一方的過失に基づくものであるから、過失相殺の適用もない。

(2) 因みに、被告は、本件訴訟前の示談交渉の段階では、原告登美子の過失は二割、被告のそれは八割と主張していたものである。

(二) 被告

(1) 本件事故態様は、一時停止の標識のある側道から進入して右折しようとした原告登美子運転の原告車と、県道の本線(以下、本線という。)を直進してきた被告運転の被告車とが衝突したものであり、原告登美子の右進入の際の安全確認不十分が本件事故の一因となっており、原告登美子は右過失により民法七〇九条に基づき、被告が被った損害を賠償する責任がある。

(2) 被告が本件訴訟前の示談交渉の段階で、原告ら主張のとおりの過失割合を示したとしても、示談未成立の本件においては、被告はその割合に拘束されない。

(3) 原告車は、被告車の進路に割り込む形で進入し、かつ、原告車の一部を被告車の走行車線上に一部出した状態で、停止したもので、原告登美子の過失割合の方が大きく、原告登美子の過失は七割、被告のそれは三割とみることもできる。

3  原告ら及び被告の損害額は幾らか(以下、争点2という。)。

4  右点に関する当事者の主張の要旨。

(一) 原告登美子(本訴関係) 二九二万七九三〇円

(1) 治療費 二一万〇五二〇円

〈1〉 川崎医大関係 一三万八一七〇円

〈2〉 石野整形関係 六万四一九〇円

〈3〉 神戸中央関係 八一六〇円

(2) 通院交通費 六万五五一〇円

〈1〉 川崎医大関係 四万八五一〇円(新幹線乗車料金及びタクシー代)

右は、原告登美子は、息子の高校の関係で、倉敷にも住んでおり、その関係で、川崎医大に通院したが、家の用事等で神戸市の自宅に帰宅した際の新幹線代と通院用のタクシー代の合計である。なお、息子の下宿先から川崎医大までは徒歩で約二五分かかり、原告登美子はタクシーを利用せざるを得なかった。

〈2〉 石野整形関係 一万七〇〇〇円

右は、通院三四日分のバス代往復分である。

(3) 休業損害 一二五万一九〇〇円

〈1〉 原告登美子は、本件事故当時、会社でアルバイトをしていたところ、そこで日額五八五〇円の収入を得ていた。

〈2〉 休業期間は、二一四日間である。

〈3〉 そうすると、原告登美子の休業損害は、五八五〇円に二一四日間を乗じた一二五万一九〇〇円となる。

また、平成九年の賃金センサスによると、原告登美子の日給は九九六六円になるところ、これに二一四日間を乗じた額の内金として一二五万一九〇〇円を請求する。

(4) 慰謝料 一一〇万円

(5) 弁護士費用 三〇万円

(6) 以上合計は二九二万七九三〇円となる。

(二) 原告弘一(本訴関係) 三七七万四五三一円

(1) 車両損害(修理費) 二〇四万八二八六円(争いがない)

(2) レッカー代金 一三万八三一六円

(3) 評価損 八四万三〇〇〇円(査定協会の査定結果)

(4) 代車料 五三万六五五〇円

右は、原告車の修理に着手した平成九年一二月一八日から修理完了の平成一〇年二月末日までのものである。なお、右期間は正月を挟んだため多少長くなっているが、通常でも修理に約二か月を要するものである。

(5) 評価査定費用 八三七九円

(6) 弁護士費用 二〇万円

(7) 以上合計は三七七万四五三一円となる。

(三) 被告

(1) 原告らの主張に対する認否

原告弘一の車両損害(修理費)以外は、不知又は争う。

(2) 個別項目に関する反論

〈1〉 川崎医大関係の新幹線乗車料金及びタクシー代は、本件事故と因果関係がない。

〈2〉 休業損害の日額単価は、もっと安いはずであり、また、二一四日全部に休業する必要はなかった。

〈3〉 評価損については、原告らは、原告車に修理後も乗っており、その後、ベンツの買換え時に原告車を下取りに出しているところ、修理後の自己使用分の評価損を差し引くべきであるし、本件事故がなかった場合の下取り価格を説明できないのであるから、現実の評価損の算定は不可能である。また、仮に、評価損を認める場合でも、修理代の一ないし二割を限度とすべきである。

(3) 被告の損害(反訴関係) 二四万七五〇〇円

〈1〉 被告車は、本件事故により損傷したところ、被告はその修理代金・四五万五〇〇〇円を負担したから、右同額が被告の損害である。

〈2〉 そして、本件事故の過失割合は、双方とも五割ずつであるから、原告登美子は四五万五〇〇〇円に五割を乗じた二二万七五〇〇円の賠償義務がある。

〈3〉 弁護士費用 二万円

〈4〉 以上合計は二四万七五〇〇円となる。

第三争点に対する判断

一  争点1(過失相殺の要否及びその程度等)について

1  事実認定

争いのない事実1と、証拠(甲一二の一部、一三ないし一七、一八の一部、一九ないし二一、乙三、四の1及び2の各一部、七、八の一部、九、原告登美子本人及び被告本人の各一部)並びに弁論の全趣旨によると、次の事実が認められ、右認定に反する甲一二、一八、乙四の1及び2、八、原告登美子本人及び被告本人の各供述は、それとは反対趣旨の前掲の関係各証拠に照らしてそのままには信用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(一) 原告登美子は、本件事故直前頃、側道から本線に入るため、原告車の右ウインカーを出して、本線南行きの二車線を斜めに横切って、中央分離帯の切れ目付近に原告車を停車(以下、本件停車という。)させ、ガリバーズ横の路外に出るために、対向車(本線の北行き車両)の通過を待っていたところ、被告運転の被告車に追突され、その弾みで原告車は右前方向に押し出され、ガリバーズの看板の設置された鉄柱に衝突して停車した。

(二) 原告登美子は、右のとおり本線に進入する際、右後方(北方向)一〇〇メートル以上先の被告車を認識していたが、その速度を見誤り、原告車の本件停車後、数秒以内(但し、五秒未満である。)に被告車に追突された。

(三) 本件停車の際、原告車の後部の一部は、ゼブラゾーンからはみ出し、被告車の進行車線(本線の南行き第二車線)上に出ていた。

(四) 本件事故当時、既に暗くなっており、原告車はライトを点けていた。

(五) 一方、被告は、本件事故直前頃、本線の南行き第二車線を時速五〇キロメートルの制限速度を超える時速六〇キロメートル以上の速度で被告車を走らせていたが、遥か左前方(南方向)の側道に停車中の原告車を認識し、原告車が本線南行きの二車線を斜めに横切って本件停車に至るのを認識しながら、原告車の右ウインカーを見落とした上、当初原告車は本線南行き第一車線に進入するものと速断し、特に被告車を減速するでもなく、漫然と被告車を進行させたため、結果的に被告車の目前を横切る形で原告車が本件停車に至るのを発見し、慌てて被告車にブレーキを掛けたが、間に合わず、被告車右前部を原告車右後部に衝突させた。

(六) なお、本件事故当時、本線南行き車線は、空いており、被告車が第二車線から第一車線に進路変更するのは、容易であり、かつ、そうしていれば、本件事故は防げた状態であった。

2  判断

(一) 以上の事実によると、原告登美子は、右後方の安全を十分に確認し、後続車(被告車)の妨げにならないように側道から本線に進入すべき注意義務があるのに、これを怠り、被告車の速度を見誤り、概ね被告車の前を右斜めに横切り、被告車の進行車線に原告車の一部を出した形で本件停車に至り、被告車の進行を妨げた結果、本件事故が発生した側面も認められるから、原告登美子は、民法七〇九条に基づいて、被告の被った損害を賠償する義務があるものというべきである。

(二) 一方、被告は、制限速度を遵守し、かつ、進路前方の安全を十分に確認し、あるいは進路前方を注視すべき注意義務があるのに、これを怠り、制限速度を一〇キロメートル以上超過し、かつ、原告車の動向を注視せず、安易に原告車は自分の前には出てこない、あるいは自分の前で停車しないものと速断し、被告車の減速をしないなど漫然と進行した過失により、本件事故を起こした。

また、本件停車後、本件事故までに数秒以内(但し、五秒未満である。)の余裕があったのであるから、被告は、余裕をもって被告車を第二車線から第一車線に進路変更し、あるいは原告車を避けて進行できたのに、これをしなかった点についても過失があるものというべきである。

(三) 以上の諸事情に照らすと、本件事故については、過失相殺の適用があり、その過失割合は、原告登美子において、二割五分、被告において、七割五分と認めるのが相当である。

二  争点2(原告ら及び被告の損害額は幾らか)について

1  原告登美子関係

(一) 治療費関係 二一万〇五二〇円

(1) 事実認定

証拠(甲三、四の1ないし36、五、六の1ないし4、二四の1ないし16及び原告登美子本人)並びに弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。

〈1〉 原告は、本件事故により頸椎捻挫を受傷した(以下、本件受傷という。)ため、川崎医大に平成九年一一月二八日から平成一〇年二月四日まで通院し(但し、実通院日数は、一四日間である。)、石野整形に平成一〇年二月一八日から同年六月一六日まで通院し(但し、実通院日数は、三四日間である。)、神戸中央に平成一〇年三月二七日の一日間通院した(右通院実日数の合計は、四九日間である。)。

〈2〉 原告は治療費関係費(文書料、転院の際のレントゲン送付料を含む。)として、川崎医大分が一三万八一七〇円、石野整形分が六万四一九〇円、神戸中央分が八一六〇円、合計二一万〇五二〇円を負担した。

(2) 判断

右の事実によると、原告登美子の治療費関係の損害は、二一万〇五二〇円と認められる。

(二) 通院交通費関係 三万六五五〇円

(1) 事実認定

証拠(甲二二の1ないし29及び原告登美子本人)並びに弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。

〈1〉 原告登美子は、息子の高校進学の関係で、息子の下宿している倉敷市に週三日住み、夫のいる神戸市の自宅に週四日住むという変則的な生活を送っていたところ、本件事故が倉敷市で発生したこともあり、倉敷市所在の川崎医大で本件受傷の治療をすることにした。

〈2〉 息子の下宿先あるいは最寄りのJR中庄駅から川崎医大までは、公共交通機関がなく、原告登美子としては、二五分程度歩いて通院するか、タクシーに乗るかの選択を迫られた。

〈3〉 そして、原告登美子は、頸椎捻挫の症状が思わしくないときに、川崎医大に通院したため、タクシーを利用したところ、そのタクシー代の合計は、一万九五五〇円となった。

〈4〉 ところで、原告登美子は、臨時的に神戸市の家の用事等のため神戸市の自宅に帰宅することもあったが、その際の新幹線乗車料金として合計二万八九六〇円(平成九年一二月五日、同月九日、同月一三日の三日分の合計である。)かかった。

〈5〉 右の治療費関係で認定のとおり、原告登美子は石野整形には平成一〇年二月一八日から同年六月一六日まで通院し(但し、実通院日数は、三四日間である。)たところ、神戸市の自宅から石野整形までバスで通院し、その三四日間分のバス代往復料金は一万七〇〇〇円かかった。

(2) 判断

右の事実によると、原告登美子の通院交通費関係の損害は、川崎医大分のタクシー代一万九五五〇円と石野整形分のバス代往復料金一万七〇〇〇円の合計三万六五五〇円と認めるのが相当である。

その理由は、原告登美子は、頸椎捻挫の症状が思わしくないときに、川崎医大に通院しているのであり、そのような状態の時に二五分程度歩いて通院することを求めるのは酷であること、石野整形分のバス代往復分は当然に認められること、家事等目的の新幹線利用は本件事故との間に相当因果関係を認め難いことである。

(三) 休業損害関係 八七万七五〇〇円

(1) 事実認定

前記通院交通費関係で認定した事実と、証拠(甲七、八及び原告登美子本人の一部)並びに弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。

〈1〉 原告登美子は、本件事故当時、夫の旧友の経営にかかる会社で電話番等のアルバイトをしていた。

〈2〉 原告登美子の本件事故当時の会社からの収入(給与等)は、日額五八五〇円であった。

〈3〉 原告登美子は、本件事故当時、概ね週の内四日しか神戸市におらず(他の三日は息子の住んでいる倉敷市にいた。)、神戸市内に所在する会社には、月に一八日位しかアルバイトをしに行けなかった。

〈4〉 原告登美子は、平成九年一一月二九日(本件事故の翌日)から平成一〇年六月三〇日まで二一四日間会社を休んだが、その原因は頸椎捻挫の症状が思わしくないことなどであった。

右認定に反する「(右全期間において、)頭痛がとれなかったり、肩凝りがひどかったりしたため、欠勤した」という趣旨の原告登美子本人(二一項)の供述は、本件受傷により後遺症が残った形跡のない本件では、そのままには信用できず、また、仕事の内容が電話番等という軽作業であることに照らして、右二一四日間にわたって電話番等もできない程の激痛が継続したとは到底思えないので、そのままには信用できない。

(2) 判断

〈1〉 以上の事実によると、原告登美子の日額休業損害は五八五〇円と認められ、休業を要した期間は合計一五〇日間と認めるのが相当である。

〈2〉 そうすると、原告登美子の休業損害は、五八五〇円に一五〇日間を乗じた八七万七五〇〇円となる。

〈3〉 ところで、原告登美子は、平成九年の賃金センサスによると、日給は九九六六円になるところ、これに二一四日間を乗じた額の内金として一二五万一九〇〇円を請求するとも主張するが、休業損害は実収入を基に計算すべきであり、また、週の内四日間しか働かない原告登美子に賃金センサスを適用するのは無理があるから、右主張は採用できない。

(四) 慰謝料 一〇〇万円

前認定の原告登美子の通院の実態(実通院日数は四九日間である。)に照らすと、同原告の通院慰謝料は一〇〇万円と認めるのが相当である。

(五) 以上合計は、二一二万四五七〇円となる。

(六) 過失相殺による修正

前認定の割合により、過失相殺をすると、原告登美子の損害は、以上合計二一二万四五七〇円に七割五分を乗じた一五九万三四二七円(円未満切捨)となる。

(七) 弁護士費用相当の損害

原告登美子が同原告訴訟代理人に本件訴訟の提起、遂行を委任したことは当裁判所に明らかであるところ、本件訴訟の難易度、右損害の認容額、その他本件に現れた一切の事情を合わせ考えると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は、一六万円と認めるのが相当である。

(八) まとめ

よって、被告は原告登美子に対し、右の一五九万三四二七円に一六万円を加えた合計一七五万三四二七円の損害賠償義務がある。

2  原告弘一関係

(一) 車両損害(修理費) 二〇四万八二八六円(争いがない)

(二) レッカー代金 一三万八三一六円

(1) 争いのない事実1と、証拠(甲九の1、二五の1、乙一〇及び原告登美子本人)によると、原告車は原告登美子の夫である原告弘一の所有であったが、本件事故により損傷したので、牽引する必要が生じたところ、原告弘一はレッカー代金として一三万八三一六円を負担したことが認められる。

(2) 右の事実によると、原告弘一のレッカー代金としての損害は一三万八三一六円となる。

(三) 評価損 四一万円

(1) 評価損については、「修理しても外観や機能に欠陥を生じ、又は事故歴により商品価値の下落が見込まれる」場合に認められるところ、具体的には「車種、走行距離、使用年数、損傷の部位、程度、修理の程度、同型車の時価、査定協会の査定等」を総合勘案して、その有無及び額を判断するのが相当であると考える。

(2) 右の見地から原告車に評価損が生じたか否か、仮にそれが生じた場合、その額は幾らかを検討する。

〈1〉 事実認定

争いのない事実1、3と、証拠(甲二、九の1ないし4、一〇、一九ないし二一、乙一〇、原告登美子本人及び調査嘱託の結果)並びに弁論の全趣旨によると、次の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

ア 原告車はドイツ車のBMWであり、いわゆる高級外車に当たる。

イ 原告弘一は、新車の原告車を平成九年二月に七〇〇万円で購入し、原告ら夫婦がこれを使用していた。

ウ 本件事故時点での原告車の走行距離は、約一万一〇〇〇キロメートルであったが、修理完了後も原告ら夫婦は原告車に乗ったので、後記査定協会の減額査定時における原告車の走行距離は、約一万四五二九キロメートルであった。

エ 財団法人日本自動車査定協会における平成一〇年二月二七日時点での原告車の本件事故による減額査定額は、八四万三〇〇〇円であった。

なお、原告車の修理完了時点での右減額査定額は不明である。

オ 原告車は、本件事故により右後部及び右前部等を中心に、大きく損傷し、その修理費は二〇四万八二八六円であった。

カ 原告らは、原告車の修理完了後も一年近く原告車を使用したが、平成一一年二月頃原告車を四〇〇万円弱で下取りに出した上、ベンツに買い替えた。

〈2〉 判断

以上の事実によると、右査定協会の減額査定は原告車の修理完了時点になされたものではないので、その証拠価値は低く、そのままには採用できないところ、原告車が本件事故当時新車同然の高額の高級外車であったこと、修理費用も多額に上ること等を勘案すると、修理ずみの原告車の時価が本件事故により低下した側面を有することは否定し難いものというべきところ、以上の諸事情と甲二三とを総合勘案すると、原告車の評価損は、その修理費二〇四万八二八六円の二割相当額の四一万円と認めるのが相当である。

(四) 代車料 三六万七五〇〇円

(1) 事実認定

前記評価損で認定した事実と、証拠(甲一一の1ないし3、二五の1の一部、乙一〇、原告登美子本人及び調査嘱託の結果)並びに弁論の全趣旨によると、次の事実が認められ、右認定に反する甲二五の1はそれとは違う趣旨の調査嘱託の結果に照らしてそのままには信用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

〈1〉 原告弘一は、本件事故後原告車と同様の新車を弁償するように被告側の保険会社である住友海上火災に申し入れたところ、住友海上火災も毅然とした態度をとらなかったので、原告車の修理が多少遅れ、修理工場が原告車の修理に着手したのは本件事故から半月以上後の平成九年一二月一六日であり、原告車の修理完了は平成一〇年二月二七日であった。

なお、原告車はドイツ車のBMWであり、その部品取り寄せにある程度日数を要し、また、修理期間中に正月休みを挟んだ関係で修理期間が長くなったが、修理工場が直ぐに修理に着手したとしても、通常修理には約二か月を要した。

〈2〉 原告弘一は、原告車の代車として、格落ちの、従ってレンタル料の安いトヨタクレスタを平成九年一二月一七日から平成一〇年二月二八日まで七三日間借りたところ、そのレンタル料は消費税込みで五三万六五五〇円であった(なお、日額レンタル料は消費税込みで七三五〇円であった)。

(2) 以上の事実によると、代車の日額レンタル料は原告車の同等車と比較して安いこと、修理工場が直ぐに修理に着手したとしても、通常修理には約二か月を要したこと、修理期間が長くなった一因として被告側の保険会社の毅然としない態度も挙げられることが認められるので、これらの事情を総合勘案すると、原告弘一が代車を使用する相当期間は五〇日間と認めるのが相当である。

そして、代車の日額レンタル料は七三五〇円であったから、代車料合計はこれに五〇日間を乗じた三六万七五〇〇円と認めるのが相当である。

(五) 評価査定費用 五〇〇〇円

証拠(甲一〇及び一一の1ないし3)並びに弁論の全趣旨によると、原告弘一は原告車の評価査定費用として消費税込みで八三七九円を負担したことが認められるが、前認定のとおり前記査定はやや的外れであることが認められるから、右評価査定費用の内金五〇〇〇円に限り本件事故と相当因果関係があるものと認めるのが相当である。

(六) 以上合計は、二九六万九一〇二円となる。

(七) 過失相殺による修正

前認定の割合により、過失相殺をすると、原告弘一の損害は、以上合計二九六万九一〇二円に七割五分を乗じた二二二万六八二六円(円未満切捨)となる。

(八) 弁護士費用相当の損害

原告弘一が同原告訴訟代理人に本件訴訟の提起、遂行を委任したことは当裁判所に明らかであるところ、本件訴訟の難易度、右損害の認容額、その他本件に現れた一切の事情を合わせ考えると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は、二二万円と認めるのが相当である。

(九) まとめ

よって、被告は原告弘一に対し、右の二二二万六八二六円に二二万円を加えた合計二四四万六八二六円の損害賠償義務がある。

3  被告関係

(一) 車両損害 一一万三七五〇円

(1) 事実認定

争いのない事実1と、証拠(乙一ないし三及び被告本人)によると、被告車は本件事故によりその右前部を中心に損傷したこと、被告はその修理費用として四五万五〇〇〇円を負担したことが認められる。

(2) 判断

〈1〉 右の事実によると、被告の車両損害は四五万五〇〇〇円となる。

〈2〉 過失相殺による修正

前認定の割合により、過失相殺をすると、被告の損害は、右四五万五〇〇〇円に二割五分を乗じた一一万三七五〇円となる。

(二) 弁護士費用相当の損害

被告が被告訴訟代理人に本件訴訟の提起、遂行を委任したことは当裁判所に明らかであるところ、本件訴訟の難易度、右損害の認容額、その他本件に現れた一切の事情を合わせ考えると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は、一万円と認めるのが相当である。

(三) まとめ

よって、原告登美子は被告に対し、右の一一万三七五〇円に一万円を加えた合計一二万三七五〇円の損害賠償義務がある。

三  結論

以上の次第で、原告らの本訴請求は、原告登美子において右の一七五万三四二七円、原告弘一において右の二四四万六八二六円及び右各金員に対する本件事故日である平成九年一一月二八日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、いずれも理由があるから、この限度で各認容し、その余の本訴請求はいずれも理由がないから、これを各棄却することとし、被告の反訴請求は右の一二万三七五〇円及びこれに対する右同様の遅延損害金の支払を求める限度で、理由があるから、この限度で認容し、その余の反訴請求は理由がないから、これを棄却することとする。

(裁判官 片岡勝行)

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